北村小松のプロレタリア小説「熱帯の風」は昭和17年2月20日に淡海堂出版部から刊行されました。
昭和9年のアメリカ領フィリピンを舞台にさまざまな軋轢で苦悩する商社マンに現地の娘とのロマンスが絡む物語ですが、配分的には同伴者文学の要素が色濃い作品です。巻末に「昭和10年9月作」と記されていますので北村がペン部隊に参加する3年前に書かれた作品ということになります。
同書に目次はありませんが本文は17章で構成されており、それぞれ順に、新来者／「お友達」と「顔見知り」／マガンダン・ダラガ／ひと事件／夜の街の叫び声／白人の娘／他人の意志／二枚目？ 三枚目？／ロス・バニオスにて／サムパ・ギタ／月光の中に／招待状／愛情と情欲と／冒険／蜃気楼／投売貨物自動車隊／南海の虹、と章題が付けられています。
この「熱帯の風」は北村小松作品が著作権保護期間を満了していることもあって「国立国会図書館デジタルコレクション」が公開しているネット送信画像で誰でも読むことができるのですが、残念ながらデジタル化の元となった原資料はp.257からp.288にかけての32ページ分（つまり折丁ひとつ分まるごと）が欠落しており、この範囲に含まれる第15章『蜃気楼』と第16章『投売貨物自動車隊』のほとんどを読むことができません。
国会図書館蔵書のデジタル化事業は蔵書がこれ以上劣化するのを抑えることが主目的で、既に劣化しているものについて復元したり後から欠落ページを部分補完したりはしないとのこと。
そこで当会では北村小松研究に携わる方々のために、国会図書館の蔵書で読むことができない2章分を個人の蔵書からスキャンし、epub形式の抜き刷り版電子書籍として試験的に公開してみました。
右上の書影サムネイル画像をクリックしますとファイルサイズ 8.39MB のepub形式ファイルをダウンロードすることができますのでご活用ください。
- この件について国立国会図書館へ問い合わせることはおやめください。
- 現代では不適切な表現（287ページ13行目「土人」）が含まれていますが、文脈上で恣意的な差別意図があって書かれたものではないこと、1935年当時の社会情勢やモラルを窺い知ることができる貴重な資料といえることなどを勘案して、原文のまま収録しております。ご了承ください。
- 電子書籍の作成にはepubファイル作成ソフト「LeME」を使用させていただきました。
- この企画は試験的に行なっているものであるため、予告なく公開を終了する場合があります。